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2016年02月07日
瀬戸内海に浮かぶ芸術の島「直島」
日本を代表する建築家・安藤忠雄をはじめとする最先端の現代美術作家らによって島全体が芸術作品となっており、現代美術の聖地と言われている。
瀬戸内海の真珠と呼ばれていた直島の地に、ベネッセホールディングスの会長・福武總一郎の発想により、“文化の森”をつくろうという構想がスタートし、安藤忠雄が参加した。
だが20世紀の経済発展の過程で、日本の美しい自然環境はあちこちで破壊された。工場からの亜硫酸ガスの排出や採石などによって緑が失われ、無残なはげ山と化している。直島も例外ではない。そんなはげ山状態の荒廃した島を前に福武總一郎は、
「ここを世界の一流芸術家の表現の場とすることで、訪れる人が感性を磨くことのできる文化の島にしたい」
荒廃した島を豊かにし、現代アートの場にするという勇気が人々を惹きつける強い原動力となるのではないだろうか。
まず瀬戸内海の植樹による自然再生を目的に、瀬戸内オリーブ基金を発足し、寄付を集め1本1本地道に植え続けている。これまでで10万本以上植樹している。島の自然の中に美術館と現代アートを点在させ、既存の古い建物を保存し、そこにもアートを挿入するという壮大な構想は現在にまで至る。
直島には「ベネッセハウス」、「家プロジェクト」、「地中美術館」、「リウファン美術館」など多くの芸術があり、一貫して美しい瀬戸内海の風景の再生と継承が考えられている。地中美術館では、抽象的な幾何学形態を組み合わせた建築を地中に埋没させて配する構造となっており、外側からは建物がほとんど見えない。島の風景に溶け込んでいる。中は正方形や正三角形の幾何学的な展示空間が、それぞれ独立しながら、中庭の“間”でつながれている。この中庭が光を取り入れるとともに、風や雨などの自然の要素や気配を五感で感じさせるつくりになっている。
直島の取り組みの中で、とりわけ高く評価されているのは民家の保存活動であり、そこに展示されている現代アートである。島には築100年以上の古民家がたくさん残ってており、これらを現代アートの展示場として改修することで、昔ながらの風景に新たな解釈を取り入れながら再生させている。こうしたプロジェクトが発表された当初は、島民からの反対の声が上がった。だが島に人が訪れるようになるにつれて、島民は自発的に民宿や喫茶店、レストランを営むようになった。過疎化や高齢化で活力を失っていた島にとって、外部の人を呼び込み、若者たちをも引きつけて地域活性の役割を果たしつつあることが何より意義深い。
直島に安藤忠雄の建築と現代美術の作品を鑑賞しようと、海外組を含めて訪問者はひきもきらない。瀬戸内の豊かで文化的な文脈を踏まえたアートサイトの建設が、産業の災禍によって、一度は荒廃した島を再生させたのである。現代建築が地域再生の起爆剤となった好例であろう。
山本